2 本研究の着想に至った経緯など
( 1 ) 本 研 究 の 着 想 に 至 っ た 経 緯 と 準 備 状 況
中央教育審議会の大臣諮問では、文理分断の改善や社会的なニーズを背景にSTEAM教育について推進を検討する要請があった⁹。同審議会初等中等教育分科会教育課程部会では、「これからの社会を生きる全ての子供たちに求められる資質・能力の育成における芸術教育の意義」というテーマの中で、STEAM教育について議論が行われている¹⁰。
その過程で、創造的なアプローチで現実社会の問題に取り組む学習や、デザインの原則を活用した創造的な問題解決を図る学習などの必要性が述べられているが、これまでの我が国の美術教育における実践や成果との関連はまったく明らかにされていない。
一方、研究代表者らは、美術教育における教育課程の改訂に関わりながら、STEAM教育、国際バカロレア教育、国内外の美術館教育等、幅広い分野で美術教育の調査研究を継続してきた。また、全国的な学力調査の問題作成や分析を担当するとともに、これを発展させ統計的な手法を用いた美術教育の観点からの学力研究を行っている。つまり、現時点で、芸術統合型教育の実践に関する国内外の横断的実地調査を行えるネットワークを保有し、学力の変容を把握するための統計的な分析
9中央教育審議会「新しい時代の初等中等教育の在り方について」(2019.4)
10前掲註2
( 1 ) 関 連 す る 国 内 外 の 研 究 動 向 と 本 研 究 の 位 置 づ け
国外では、STEAM教育をはじめとした芸術統合型学習に関する研究論文や書籍が盛んに発表されている。グローバル化や情報化、不確かさを増大させる社会において芸術の役割が重視されるという指摘や、AIとの対比で創造性が重要になることを述べた文献が多い¹¹。
国内の研究においては、STEAM教育関連の日本語論文は80篇に満たず、そのうち芸術の立場から論考は僅かに2編である¹²。「日本STEM教育学会」や「一般社団法人STEAM教育協会」が発足しているが¹³、科学や技術教育に議論が偏っており、美術教育に基盤をおく実践は見られず、プログラミング学習と図画工作の要素を安易に接続するなどの事例も散見される。美術教育の意義や価値を踏まえ、事例の紹介やデータの提供等、研究環境の形成を行うことは喫緊の課題である。
限られた研究状況の中で、安東・金¹⁴は、STEAM教育に美術教育を導入することによって、各教科を学ぶ本質的な意義を重視しつつ、教科単独では生み出し得ない創造的な学習機会を学校教育に実現する可能性を指摘する。小池¹⁵は、平和な世界の構築への貢献、探究心をもった人間の育成等の理念が、芸術統合型学習によって実現することを指摘している。本研究はこれらの研究と軌を一にするものであり、美術教育の立場から、芸術統合型学習の実践に寄与することを目指
9中央教育審議会「新しい時代の初等中等教育の在り方について」(2019.4)
10前掲註2
11David A.Sousa & Tom Pilecki,“From Stem to Steam, Using brain-compatible strategies to integrate the arts” ,Corwin a sage company.United States of America(2013)
12畑山(2018)(前掲注1)、安東恭一郎、金政孝「科学と芸術の融合による教育の可能課題―韓国STEAM―教育の原理と実践場面の検討」『美術教育学』第35号、pp.61-77、2014
13日本STEM教育学会https://www.j-stem.jp、一般社団法人STEAM教育協会https://www.steam.or.jp/
14前掲注12
15小池研二「国際バカロレア初等課程プログラムの視覚芸術科についての研究-探究的な学びを中心に-」『美術教育学』35号,美術科教育学会,pp.269-282,2014